市村萬次郎は、歌舞伎界において長年にわたり活躍を続けてきた名優であり、その確かな技量と深みのある演技で観客を魅了し続けている。1966年に初代市村萬次郎を名乗って以降、1970年代から1980年代にかけて多くの歌舞伎座や国立劇場の舞台に立ち、古典の重厚な役から新作歌舞伎まで幅広いレパートリーで存在感を示してきた。特に女形としての芸に定評があり、そのしなやかで優美な所作、表情の機微に富んだ演技は、多くの後進の手本ともなってきた。市村萬次郎の本名は榊原正憲で、東京都出身、父は歌舞伎俳優・五代目市村羽左衛門であり、芸の家系に育った。1980年代には幹部俳優としての地位を築き、以後も名題昇進や数々の舞台での主役を経て、歌舞伎界に欠かせぬ存在となった。演目によっては立役もこなし、芝居の奥行きを自在に操る力量を持つ。近年では若手育成にも力を注いでおり、その姿勢は演劇界全体の発展にも寄与している。またテレビや映画にも出演し、古典芸能にとどまらない幅広い活動を展開してきた。紫綬褒章や旭日小綬章といった国からの叙勲も受けており、その功績がいかに大きいかを物語っている。市村萬次郎の歩みは、まさに昭和から令和にかけての歌舞伎史を映し出す鏡であり、伝統を現代に生かす先導者として、今なお第一線で輝き続けている存在である。
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