舞台『ダイアナ～それぞれのダイアナ～』は、2024年9月に東京芸術劇場プレイハウスで上演されたオリジナル舞台であり、20世紀後半の英国王室を象徴する存在となったダイアナ元妃の人生を、多角的な視点から描いた意欲作である。本作は単なる伝記劇にとどまらず、「ダイアナ」という名を持つ複数の女性たちの物語が交錯し、それぞれの人生に映る社会的な制約や希望、愛と葛藤を通して、一人の人間としてのダイアナ像を浮かび上がらせている。主演を務めたのは舞台経験豊富な女優・咲妃みゆで、彼女は元宝塚歌劇団雪組トップ娘役としても知られており、その繊細な演技力と華やかな存在感によって観客を惹きつけた。また共演には、元乃木坂46の若月佑美や、実力派俳優として定評のある神尾佑が名を連ね、複数の時代や立場を象徴する役柄を演じ分けることで物語に厚みを加えていた。脚本・演出は鴻上尚史が担当し、彼ならではの社会批評的な視点と人物への深い洞察が全編にわたって表れている。原作に基づくのではなく、完全オリジナルのストーリーとして構築されており、ダイアナ妃が生きた時代のメディア報道や王室の重圧、そして現代に通じる「女性としてどう生きるか」という問いが随所に織り込まれている。舞台美術はシンプルで象徴的なセットを採用し、映像や照明の効果によって時代の移り変わりや心理描写を巧みに表現していた。千秋楽は2024年9月29日に開催され、観客のスタンディングオベーションに包まれながら幕を閉じた。舞台『ダイアナ～それぞれのダイアナ～』は、個としての女性たちが名もなき歴史の中でどのように自分を表現し、生き抜こうとしていたのかを問う現代的な舞台作品である。
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