さまよえるオランダ人は、リヒャルト・ワーグナーが作曲した全3幕からなる歌劇であり、原題は『Der fliegende Holländer』である。初演は1843年にドレスデンで行われ、ワーグナーにとって本格的な音楽劇様式の出発点となった重要な作品である。本作は世界をさまよう幽霊船とその船長をめぐる伝説をもとにしており、台本も作曲者自身が執筆している。物語は、呪いによって永遠に海を彷徨う運命を負わされたオランダ人船長と、彼の救済を信じて愛を貫こうとする女性ゼンタとの間の悲劇的な愛を描いている。舞台の中心には北欧の荒れ狂う海と、運命の波に翻弄される人々のドラマが広がっており、嵐や入港の場面、幻想的な合唱など壮大な演出が魅力である。日本では東京文化会館や新国立劇場などで繰り返し上演されており、海外の著名な演出家による演出や、日本人キャストによる解釈も注目されてきた。2020年代には、演出家ペーター・コンヴィチュニーによる現代的な解釈で大きな話題を呼び、舞台装置や映像演出を駆使した新たな試みが観客の高い評価を得た。音楽面では序曲からして強烈なインパクトを放ち、重厚なホルンや弦の旋律によって波のうねりや運命の重さを象徴的に描いている。ゼンタのアリア「彼の苦しみが私のものであったなら」などは女性ソプラノの見せ場として有名であり、多くの名歌手がこの役を歌ってきた。日本国内では東京二期会や藤原歌劇団などが上演しており、オペラファンにとっても演出家やキャストごとの違いを味わえる演目として親しまれている。近年ではデジタル演出を導入した公演も増え、若い観客層にも訴求している点が特徴である。
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